バレエとメンタルケア:海外での孤独とどう向き合うか?

はじめに:海外留学の「もうひとつの現実」

バレエ留学は、多くのダンサーにとって夢の実現であり、キャリアの第一歩です。
世界中から集まるハイレベルな仲間たちと切磋琢磨し、名門学校で学ぶ――。
一見華やかで希望に満ちた日々のように思えます。

しかし、その裏には「孤独」や「ホームシック」、そして「自己否定感」といった心の課題が静かに存在しています。

このブログでは、海外のバレエ学校で実際に体験されているメンタル面の課題と、それにどう向き合っていくかについて、具体的にお話ししていきます。


なぜ孤独を感じるのか? ― 留学生ならではの心の壁

1. 言語の壁

「英語は話せるはずなのに、感情が伝わらない」
「ジョークについていけない」「クラスメイトとの距離が縮まらない」

言語は、コミュニケーションの道具であると同時に、文化や感情を共有するツールでもあります。
言語が十分に使えないと、思っている以上に**“自分の存在感”が薄れる感覚**を抱くことがあります。

2. 文化の違い

・ヨーロッパでは「意見を言う」ことが大切
・上下関係があまりなく、自己主張が当たり前
・日本的な“謙遜”が逆に誤解を生むことも

異文化の中に身を置くことで、「自分が普通だと思っていたこと」が通じない現実に直面します。

3. 家族・友人との距離

・何か辛いことがあってもすぐに話せる人がいない
・時差のせいで連絡もスムーズに取れない
・周囲は忙しそうで、悩みを打ち明けられない

これは特に10代後半〜20代前半の若いダンサーたちにとって、大きなストレスです。


バレエの厳しさと“メンタルの揺らぎ”

バレエは「正しさ」と「美しさ」を求める芸術です。
そのため日常的に、自分の身体・技術・表現力が評価され、比べられます。

  • 毎日鏡と向き合い、自分の“できない”と対峙する
  • 周囲には上手な人が溢れ、自信をなくす
  • オーディションやコンクールに落ちるたびに、価値を見失う

このような“自己評価の揺れ”は、ほぼすべてのダンサーが経験します。
特に海外では、「相談できる日本人の先生がいない」という状況が、それをさらに強くします。


実際の声:留学生たちのリアルな体験

「周りに上手い子ばかりで、毎日比べてばかりいました。」
— ドイツ留学・18歳・女性

「朝起きた瞬間、“今日も踊らなきゃいけないのか”って思ってた。自分がバレエを好きだったことを忘れかけてた。」
— フランス留学・20歳・男性

「寮の部屋で一人になるのが怖かった。夜になると涙が止まらなかった。」
— オランダ留学・17歳・女性

これらは決して特別な例ではありません。
むしろ「留学に慣れてきた頃」に多くの人がぶつかる“心の壁”なのです。


孤独や不安と向き合うための具体的な工夫

では、そうしたメンタルの揺らぎにどう向き合えば良いのでしょうか?
以下は、実際に多くの留学生が取り入れている具体的な工夫です。

1. 感情を“見える化”する:日記や感情メモ

  • 毎日5分だけ、自分の気持ちを言語化してみる
  • 「今日できたこと」「嬉しかったこと」を1つだけ書く

書き出すことで、感情が整理され、自己肯定感が育ちます。

2. 日本語で話せる人を確保する

  • 留学仲間、日本語が話せる先輩、オンラインカウンセラーなど
  • SNSやLINEなどで定期的に“安心できる対話”の時間を持つ

言語で気を遣わない環境があるだけで、心は大きく回復します。

3. オフの日は“踊らない”時間を大切にする

  • 散歩、映画、カフェ、美術館など、身体を休める習慣を作る
  • 自分が「バレエ以外で好きなこと」に意識的になる

“好きなこと”を知ることは、「バレエがすべて」にならないバランス感覚を保つ上で重要です。

4. メンタルケアのプロに頼る

最近では、オンラインのメンタルヘルスサポートを受ける留学生も増えています。

  • 留学生専門のカウンセラー
  • バレエ経験のあるメンタルコーチ
  • 日本語対応のセラピスト

「心が辛い」は甘えではありません。
それをケアすることは、アスリートとしての当たり前の自己管理です。


バレエは孤独と向き合う芸術でもある

芸術の道は、時に孤独です。
でもその孤独の中にこそ、本当の自分と向き合うチャンスがあります。

バレエを通じて出会う自分、
踊ることでしか癒せない心、
他人と比べずに「昨日の自分と比べる」姿勢――

そうした小さな積み重ねが、
舞台での強さと輝きをつくっていくのです。


最後に:あなたは、ひとりじゃない

もしあなたが、今海外で孤独を感じているなら。
また、これから留学を考えていて不安を抱いているなら。

どうか覚えておいてください。

あなたのように悩んでいる人は、決してあなただけではない。
メンタルケアは、弱さではなく、プロフェッショナルの証である。

留学は、自分を試す場であり、育てる場。
バレエを踊るあなたの心が、健やかであることが、
何よりも大切なのです。

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